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水戸地方裁判所 昭和49年(レ)10号 判決 1975年12月09日

控訴人

大木昇

右訴訟代理人

海老原信治

被控訴人

国府田忠平

右訴訟代理人

池田換

主文

原判決を取消す。

被控訴人の本訴請求を棄却する。

被控訴人は控訴人に対し原判決別紙目録記載の土地を引渡せ。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、本訴反訴とも被控訴人の負担とする。

この判決は第三項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一本訴請求について

(一)  被控訴人が従前控訴人から本件土地を賃借してきたことは当事者間に争いがなく、控訴人が昭和四七年三、四月ころ、本件土地の周囲に丸太杭を打ちこれに有刺鉄線を張つた柵を設けて被控訴人の本件土地への出入を妨害していることは、控訴人の明らかに争わないところである。

(二)  そこで、抗弁(一)(無断転貸による解除)について判断する。

<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1)  被控訴人は、昭和四五年一二月初めころ、砂利採取業者の訴外栗山に対し本件土地のうち約三畝を昭和四六年三月まで同訴外人が本件土地の隣接地から土砂を採取するための通路として使用することを承諾し、その使用料および本件土地に植えられていた桑の補償金として金一二万円を受領したこと。

(2)  訴外栗山は、被控訴人から借受けた土地を昭和四六年三月ころまで土砂採取用のブルドーザーおよびダンプカーの通路として使用したほか、同地上に床面積一〇平方メートル位のプレハブ建物を建築して作業員の休憩所等として使用し(ただし、右建物は被控訴人の抗議により約一か月位で撤去された)、さらに他から運んできた土砂の集積混合場所としても使用したこと。

<証拠判断略>他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

次に、訴外栗山が被控訴人から本件土地の一部を借受けた目的が主として隣接地で土砂を採取するための通路として使用するにあつたことは前記のとおりであり、本件土地から土砂を採取するために同土地を借受けたことを認めるに足りる証拠はないが、<証拠>によると、訴外栗山が借受けた土地は、昭和四五年一二月二七日、昭和四六年二月一一日、同年三月六日と日を経るに従つて隣接地より土地が低くなつており、また隣接地との境界木であるウツギの木が昭和四六年二月一一日の時点で既に取り去られていることが認められ、さらに<証拠>によると、同証人が昭和四五年一二月に農業委員会の調査のため本件土地を訪れた際、同土地は三畝位の範囲にわたり浅い所で二、三〇センチメートル、深い所で五〇センチメートル位堀り下げられて砂利採取現場に通じる通路とされていた事実を認めることができる。

もつとも、<証拠>によると、訴外栗山が借受けた土地は、通行した車両の重みにより固められたことによつても地盤の低下をきたした事実を認めることができる。しかし、前記認定事実に照らすと、<証拠>中、訴外栗山が本件土地を約一メートル位堀り下げて土砂を採取した旨の供述部分は直ちに信用できないとしても、同訴外人が被控訴人から借受けた土地の表土を、通路を開設するためあるいは他から運び入れた土砂の集積混合をする際ブルドーザーを作動させたことにより、ある程度削り取つたことは明らかであり、<証拠判断略>他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上に認定した被控訴人が本件土地の一部を訴外栗山に使用させた行為は、本件土地の転貸に該当するものと解されるところ、<証拠>を総合すると、控訴人は、訴外栗山が本件土地の一部を転借していることを知つたのち、昭和四五年一二月二一日ころ、被控訴人方を訪れて同人に対し口頭で本件土地の賃貸借契約を解除する旨意思表示した事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

また、控訴人が、昭和四六年五月二二日、被控訴人との本件土地賃貸借契約を解除することにつき茨城県知事から農地法第二〇条による許可を取得したことは当事者間に争いがない。

(三)  進んで、再抗弁(被控訴人の転貸が背信行為とならない特段の事情の存在)について判断する。

<証拠>によると、被控訴人が訴外栗山に本件土地の一部を転貸するに至つたのは、同訴外人より再三懇請されたことによるものと認めることができるが、他方<証拠>によると、被控訴人が本件土地の一部を訴外栗山に転貸するのを容易に応じなかつた理由は、主として桑の補償金を含む土地使用料の金額の点にあり、結局訴外栗山は被控訴人の要求した金一二万円を支払つて転貸を受けたことおよび右金額は、被控訴人と同様に訴外栗山に対し土地を使用させた他の土地所有者の受領した使用料に比較するとかなり高額なものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、被控訴人が訴外栗山に転貸するについて同訴外人より再三懇請された事実は、被控訴人の転貸行為の背信性を減少させる要素にはならない。

次に、被控訴人が、訴外栗山において転借地上に建築したプレハブ建物を除去するように抗議した結果約一か月後に右建物が撤去されたことおよび被控訴人のした転貸が本件土地の一部(約五分の一の面積)にすぎず、しかも約四か月の短期間であつたことは前に認定したとおりである。

しかしながら、訴外栗山の転借地使用の態様は前に記したとおりであり、とりわけ転借地の表土の一部を削り取り、他から運んできた土砂の集積混合場所としても土地を使用したことからすると、農地である本件土地について容易に回復しがたい土質の変更をもたらした事実を推認することができるのであるから、右のような被控訴人の対処方法および転貸の範囲、期間を考慮してもなお被控訴人の訴外栗山への転貸行為は背信性があるものといわざるを得ない。

もつとも、控訴人の前記賃貸借契約解除の意思表示が効力を生ずべき時期である茨城県知事から農地法第二〇条の許可がなされた昭和四六年五月二二日においては、訴外栗山への転貸借は既に終了していたことが明らかであるが、無断転貸により賃貸借契約の解除権が発生した場合、その転貸が終了した一事のみによつては解除権の行使を妨げられることはない(最高裁昭和三二年一二月一〇日判決民集一一巻一三号二一〇三頁参照)のみならず、前記の訴外栗山の土地使用による土質の変更は右農地法第二〇条による許可がなされた時点においても残存していたことが明らかであるから、被控訴人の転貸により控訴人の受けた不利益な状態は右時点にも存在しており、これを考慮すると前記転貸借終了の事実も被控訴人の転貸行為の背信性を阻却するものではない。そして、本件全証拠を検討するも、他に被控訴人の転貸行為が背信行為とならない特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

従つて、前記控訴人の被控訴人に対する賃貸借契約解除の意思表示は、その後茨城県知事から農地法第二〇条による許可がなされたことにより効力を生じ、控訴人と被控訴人間の本件土地賃貸借契約は解除によつて終了したものと判断される。

そうすると、本件土地賃貸借契約の存在を前提として賃借権の確認および前記柵の撤去を求める被控訴人の本訴請求は、理由がないことに帰する。

二反訴請求について

反訴請求に対する判断は、反訴請求の請求原因について「控訴人が被控訴人に対し、本件土地を賃貸しかつ引渡していたことは当事者間に争いがない」と付加するほか、本訴請求の抗弁および再抗弁に対する前記判断と同一である。

右判断によれば、本件土地賃貸借契約の解除を理由として被控訴人に本件土地の引渡を求める反訴請求は理由がある。

三結論

以上によると、被控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、控訴人の反訴請求は理由があるから認容すべきところ、これと結論を異にする原判決は不当であるからこれを取消すこととする。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九六条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用し、主文のとおり判決する。

(長井澄 太田昭雄 寺尾洋)

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